閃光のように 第1話 |
俺の名はルルーシュ・ランペルージ。 唯の学生だ。 だがそれは表向きの話であって、本当の名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。 世界の1/3を支配する神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニアという名の時代錯誤なロール髪で有名な厳つい男の息子だ。 第11皇子。 それが俺。 なぜ偽名など名乗っているかと問われれば、幼いころに愛する母マリアンヌをテロリストに暗殺されたからだ。 母の葬儀にも出ず、母が暗殺された時に巻き添えとなり、足と目に障害の残った娘の見舞いにも訪れなかったバカ親父に直談判に行き、皇位継承権を失った。 今思えば2ケタを超える兄弟、同じく2ケタを超える皇妃・・・今は3ケタに達し皇妃の数は108人と煩悩の数だけいる男に、愛情を求めるなど愚かな話だったのだ。 幼かったとはいえ、どうして気付けなかったのだと、当時の自分が目の前に居たなら、あの男はただ性欲に突き動かされ子供をポンポン作っているだけで、子供に愛情など欠片も無いんだぞと切々と説きたい。 大体ブリタニアは重婚が認められていないのに、どうして皇帝は重婚可なんだ。 血を残すためと言われれば仕方がないが、歴代の皇帝は多くて10人程度。 100を超えているあの男が異常なのは間違いない。 まあ、その話はいい。 あの謁見の後、治療を終えた妹と二人、言葉も解らない異国の地、日本へと留学という名の人質に出された。 そして、日本が油断をした隙を狙って宣戦布告。 ものの見事に日本はブリタニアに完敗。 蹂躙され、植民地と成り果てた。 俺はその状況を利用することにした。 国に戻れば別の国へ人質に送られるだけだから、ナナリーと二人、日本での戦争に巻き込まれ、死んだことにしたのだ。 我ながらナイスアイディア! さすが俺! と、今でも自分を褒め称えるぐらいの最良の一手だった。 幸い母の後見をしていたアッシュフォードが匿ってくれることになり、一時的とはいえ世話になることにした。 なにせ最愛の妹は自力で歩くことも、物を見ることもできないからだ。 安定した生活は、心に傷のあるナナリーには大事だった。 それが砂上の城だとしても。 ああ、ナナリー。 出来る事なら俺がその傷を負いたかった。 母を殺し妹を傷つけた犯人は見つけ出し、必ず復讐すると心に決めている。 どうせ皇妃の誰かが裏で糸を引いているのだから、死ぬより辛い責め苦に耐えかね、俺に救いを求め、俺の靴の裏をなめるぐらい追い詰めるつもりだ。 密かな人生の楽しみだったりする。 まあ、それもいい。 早い話が俺は唯の学生を装った元皇族だ。 年齢17歳。 性別男。 家族は最愛の妹ただ一人。 親友は日本人の枢木スザク。 ・・・先ほど、俺を庇い親衛隊に撃たれたのがそうだ。 折角再会できたというのに。 馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、ブリタニア軍に入るなんて大馬鹿にも程がある。 使い捨ての駒にされることぐらい、脳筋なお前でも解るはずなのに。 ・・・だから、あんな目に合うんだ・・・。 スザク、お前のためにもブリタニアをぶっ壊し、日本も取り戻してみせるからな! 草葉の陰で見ていてくれ! ・・・よし、俺の記憶にも感情にも何も問題はない。 これらは俺という人間を構築する上で必要不可欠な情報で、違える事などあり得ない。 そこまで思考を巡らせてから、ルルーシュはゆっくりと目を開いた。 目に映るその場所は、薄汚れた古びた倉庫だった。 長い間放置されたそこは、窓ガラスも全て割れ、壁にひびも入っている。 床には無数の屍が横たわり、俺の足元にはブリタニアの軍人が転がっている。 第三皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアの親衛隊だ。 この床一面に流れるおびただしい血と、屍を作り出した原因。 スザクの仇。 この親衛隊の人間が、ここに避難してきたイレブン・・・嘗ての日本人を虐殺した現場に俺は居合わせた。 毒ガスと呼ばれた少女と共に逃げた俺を追っていた親衛隊は、俺を見つけると銃口を向けてきた。 殺される。 だから、全員倒した。 ・・・残念なのは、全員生きているという事か。 殺すべきなのだが、そこまで行動に移せなかったのだ。 なぜなら、今俺自身が体験している現象の方が遥かに重要で、はっきり言ってしまえば俺は混乱していた。 親衛隊を打倒した後、ここまで思考を巡らせるのにかかったのは僅かに5秒。 混乱してなければもっと短くすんだのだが。 何処までも観察者の俺が呆れたように苦笑していた。 「いい加減現実を認めろルルーシュ」 後ろから声が掛けられ、俺は滑稽なほどびくりと体をふるわせ振り返った。 そこには額から血を流している、毒ガスと呼ばれた少女。 その血は額の銃痕から流れたもの。 親衛隊が放った凶弾を額に受け、少女は即死した。 俺は、それを先ほど目の当たりにしたのだ。 それなのに、今目の前にはその少女がしっかりとした足取りで立っていた。 額を流れ落ちる血をうっとおしいと言いたげに、真っ白な拘束意の袖で乱暴にぬぐう。 ああ、馬鹿! 血液はなかなか落ちないんだぞ! しかも白!! いや現実逃避している場合じゃない。 「死んだはずなのに動くだと!?ゾンビ・・・いや、まさかバイオハザードか!」 ならばヘリコプターに要注意だ!必ず墜落するぞ! 会長たちがよく生徒会室でやっていたシリーズ物のゲームを思い出し、俺は青ざめた。 成程、人間が毒ガスとはどんな冗談かと思ったが、これはまさしく猛毒だ。 噛まれれば・・・いや、その体液を体内に取り込んでしまうと感染してしまう。 まさか現実世界に傘の会社が存在していたとは。 「ゲームと一緒にするな。私はごくごく平凡な不老不死の美少女だ」 「不老不死が平凡であってたまるか!」 「男が細かい事を気にするな。・・・おっと、今は違ったか?」 にやりと口元に笑みを浮かべた少女は、俺の体をなめまわすように見つめた。 その視線で、俺は今まで思考を混乱させていた内容を思い出した。 現実逃避はここまでだ。 認めたくは無いが認めよう。 ああ、認めてやる! 生まれてから今日まで男だったはずの俺は、今、女になっていたのだ。 |